木内一裕著「矢能シリーズ」感想

 木内一裕先生の小説を読んでみたところ、面白かったので立て続けに読みました。
 以下、作品の感想を書きます。

「水の中の犬」は、矢能シリーズの中ではプロローグ的な位置づけの作品です。
 矢能は脇役として登場します。
 厳密には矢能シリーズとはいえないかもしれません。 

 主人公は元刑事の探偵です。
 連作短編のような構成です。
 探偵が弱すぎで意外でした。

 ありがちなハードボイルド系の小説かなと思いました。
 特に面白いとも面白くないとも思えませんでした。
 ただ、漫画家の書いた小説としては、上出来といえるのかな~という感想を持ちました。

 ▲木内一裕著「アウト&アウト」
 一気に読みました。
 面白かった。

 一級のハードボイルド&エンタメ小説だと思います。

 政治家、空手家などが出てきますが、このキャラ造形は面白みはなかったです。
 普通すぎるというか、定型の域を出ていません。

 個人的に、格闘技をやっている人間は、全員がそうというわけではないけど、考え方が普通とズレている部分があったりします。
 頭がおかしい人間が多いです。
 常識外れというか、常識が通用しないというか、とにかく尋常ではない思考をしたりします。
 空手の師範や、クリントンにも、そのような常識外れ的なものがあれば良かった。

 この作品は映画化もされています。
 予告をみた限りは、キャスティング的にあまり成功しているとは言いがたいかな~見てないので分からないです。

 ▲木内一裕著「バードドッグ」
 矢能シリーズとして3作目です。

 ヤクザのポスト獲得競争に関しての内紛のお話。
 面白かったけど、ほかの矢能シリーズ作品と比べると地味な印象でした。

 結末は良かったです。
 特にお婆さんが良かった。
 あのお婆さんの存在によって栞の良さが際立っています。
 お婆さんだからといって、善人であるとは限りませんが、矢能シリーズのこのお婆さんは善人だろうと思います。

 ▲木内一裕先生の「ドッグレース」
 アマゾンのレビューは高評価なので、たぶん面白いのだろうと思ったらまんまその通り、面白かった。

 主人公が探偵で、ハードボイルド系で、きざなのかと思ったらそうでもなく、随所にユーモアもあり、主人公は強面の大柄な中年男性で、その主人公が若い女性と恋愛するような気配があるけど結局発展せず(この男女の序破急も納得のいくものでした)、たばこをバンバン吸ってコーヒーを飲む場面が多く、一見古めかしい感じはするけど、その実、あくまで現代的な雰囲気の、バランスのとれた小説でした。
 小説版の「ザ・ファブル」のような印象を持ちました。

 ハードボイルド系の小説や時代小説だと、主人公の男と若い女性の色恋が描かれることが多いですが、個人的には気持ち悪いです。
 そのような場面が本作にはないです。素晴らしい。

 文体も最初は、軽いかなと思ったらそうでもなくて、かといって固すぎず、蘊蓄も適度にちりばめてあり、こなれている感じを受けました。
 頭がよくてセンスもいい人なんだと思います。
 さすがに「ビーバップハイスクール」の作者だけあります。

 無理矢理難癖をつけるとすれば、主人公が強すぎるかなと思いました。

 本作「ドッグレース」は4作目です。
 続き物ではないので、4作目から読んでも問題はないです。しかし1作目から読んだほうが楽しめるはず。

「矢能シリーズの総評」
 面白い。
 ハードボイルド系の小説が好きなら楽しめると思います。
 バイオレンス、コメディ、ピカレスク、ミステリー、いろんな要素がうまい具合にミックスされています。
 エンタメ小説の見本のような小説。

 矢能シリーズは2022年12月現在、5冊が刊行されています。

1作目 水の中の犬(矢能は脇役)
2作目 アウト&アウト
3作目 バードドッグ
4作目 ドッグレース
5作目 ブラックガード

「ブラックガード」はまだ読んでないです。

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