読書感想「隠し剣 秋風抄」藤沢周平著

「酒乱剣石割り」がお気に入り

 藤沢周平さんの「隠し剣 秋風抄」を読みました。
 こちらは短編集です。
 木村拓哉さん主演の「武士の一分」の原作「盲目剣谺返し」が収録されています。
「盲目剣谺返し」も面白いけど、私のお勧めは断然「酒乱剣石割り」です。

酒乱剣石割りの主人公はアル中

 電車のなかで何気なく読み始めて、あまりの面白さに途中で読むのをやめて最初から読み直しました。
 主人公の弓削甚六のだめっぷりが滑稽で楽しいです。
 アル中で、妻からは馬鹿にされ(しかも妻のほうが大柄)、妹は藩の上層部の嫡子に欺され、手込めみたいにされてしまいます。
 しかもその妹が、実はまんざらでもない雰囲気です。
 主人公の弓削甚六は情けないけど、剣の腕だけは確かです。
 お酒を飲んで酔っ払うと、益々その剣術が冴えるという特殊な性癖の持ち主です。
 これが剣の腕が人並み以下なら面白くもなんともないけど、真逆なので格好いいです。
 落差がしっかりあって、そういうはっきりとしたキャラとか物語が好みです。
 結末は……アンハッピーなんだと思います。
 最後の場面において、弓削甚六の人生の輝きというものを、確かに見た気はしますが。
 けど、終わりです。
 あそこで。
 死ぬことはないにしても、藩という世界の中では、出世の道は絶たれるだろうし、だったら脱藩という結果になるのかもしれません。
 ま、物語のあとのことを色々と想像するのも楽しいです。

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