2018年の渋谷のハロウィン暴動

 2018年のハロウィン、渋谷で暴動が起こったそうで、軽トラが横転したりして結構な騒ぎになったようです。

 なぜ暴動が起こったのか。
 日本人の民度が下がっているのか。それとも別の要因があるのか。
 結論からいうと暴動が起こったのは「条件がそろったから」です。
 間が悪かったというのもあると思います。
 加えて、毎年ハロウィンでは暴動が恒例になっているようなので、そういう雰囲気的な部分も関係すると思います。

 ダンカン・ワッツ著『偶然の科学』のなかに「グラノヴェッターの暴動モデル」という数理モデルが紹介されています。
 町の広場に、100人の学生が集まって、政府の授業料引き上げ案に抗議をしています。
 彼らの心中では二つの本能がせめぎ合いをしています。
 ひとつは、暴力に訴えたい本能。
 もうひとつは、あくまで平和的に抗議をしようとする本能です。
 学生たちは、どちらかを選ばなければなりません。
 そして彼らは、ある程度は、他の学生の行動を踏まえて自らの行動を決めます。
 学生たちの性格や素性はそれぞれ異なります。
 裕福な学生もいれば、そうではない学生もいるし、暴力によって社会を変えることができると信じる学生もいます。
 授業料値上げに関係なく、単に普段の生活や、政府の権力に不満を持っている学生もいます。
 単に目立ちたいだけの学生もいるでしょう。
 学生がそれぞれ異なっているように、そのしきい値も同一ではありません。
 この場合のしきい値は、多くの学生が暴動に加われば、自らもその暴動に加わるが、暴動に加わる人数が少ないと、自らは自制する、という値になります。
 しきい値は、通常は分布していますが、何が起こるのか(未来予測)を具体的に示すため、ここでは単純な分布を仮定します。
 100人の学生のしきい値が異なっていることにして、1人目のしきい値はゼロ。
 2人目は1、3人目は2、といった具合に割り当てます。
 100人目の学生は最も用心深く、ほかの99人が暴動に加わってはじめて自らもその暴動に加わることにします。

 さて、何が起こるか。
 最初の学生、しきい値がゼロの学生が、突然、物を投げはじめます。
 しきい値が1の学生がそれに続きます。
 3人目は、しきい値が2の学生です。4人目、5人目と続いて、暴動は100人全てに伝播しました。

 隣町にも、同じ人数の学生が、同じ理由で集まったと仮定します。
 そして、しきい値の分布も、ほぼ同じに設定します。
 2つのグループは似ていますが、じつはひとりの人物のしきい値だけが違います。
 後者のグループでは、しきい値が3の人物が存在せず、しきい値が4の人物が2人います。
 ほんの些細な違いです。
 結果はどうなるか。
 しきい値3の人物が存在しないので、暴動とはなりません。
 わずか3人の学生(しきい値がゼロと1、2の学生)が物を投げて騒いでいるだけです。
 もし、この二つのグループを観察している者がいれば、その目にはどう映るか。
 前者では大暴動が起こり、後者では3人の学生が騒いでいるだけで、ほかの大部分の学生は平和的に抗議を行っています。
 観察者は、事後正当化を持ち出して、色々と理由を付けるはずです。
 前者の学生たちのほうが暴力に飢えていたから。
 または警察官の態度が横暴だったから。
 もしくは優秀な扇動家がいたのかもしれない。
 そう考えるはずです。
 始まりはほぼ同じだったのに、結果には大きな差が生まれました。
 両者に決定的な違いがあると考えるのは当然です。
 しかし実際には、後者の学生たちのなかに、しきい値が3の学生がいなかっただけでした。
 ほかは全て同じ状況でした。
 些細な違いが、結果に大きな影響を与えたのです。

 だから2018年のハロウィン、渋谷で暴動が起こったのは、些細な偶然が重なっただけだと思います(暴動が恒例となっているようなので、暴動に発展しやすい土壌はあるのでしょうけど)。
 別の世界線(実在するかどうかは分かりませんが)での渋谷は、平穏なハロウィンを迎えたかもしれません。

 一部が騒ぎ出して、それにつられて周りも騒ぎ出し暴動のようになってしまったと考えられます。
 騒ぎを起こすような若者が1カ所に集まった結果ともいえます。

 この調子だと、来年も何も対策をしなければ、暴動みたいなことが起こるでしょうけど、さすがに行政側が何かしらの対策をするだろうから、渋谷ではなく、ほかの地域で暴動になったりする可能性はあると思います。

 あと、若者が劣化しているからこのような暴動が起こるなんていう人もいますが、そういうのは個人的には感じないです。

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