「ザ・ファブル」22巻(最終巻)の各エピソードの感想


「ザ・ファブル」22巻における各エピソードの感想です。

 まずは229話「寝転ぶ男…。」と230話「ラシャの男…。」
 アキラと山岡、ユーカリとアザミが戦い、アキラの圧勝で終わり。
 ユーカリはこの中だとちょっと落ちるなと思いました。
 相手の間合いに入っているのに拳銃を扱うのは違和感あります。
 アキラが引き金に指を入れて発射できなくなりますが、普通なら銃を取られて終わりです。
 銃身を握ってそのまま向こう側にひね上げるか、左にねじれば取られます。
 3人がかりなら勝てるだろうという慢心があったのかもしれません。

231話「テントの男…。」
 場面変わって二郎が山中でテント泊をしているところ、洋子、鈴木、マツが急襲します。
 鈴木は久々の登場です。
 マツから娘の警護を頼まれていたところを、二郎確保の助っ人として呼ばれました。

 場面戻って、アキラと山岡たちの戦い。
 アキラが場を制して、山岡はアキラの前にひざまずきます。
 ユーカリとアザミが「殺すな」と声をかけるものの、山岡は観念している様子。
 アキラは山岡に銃を向けるものの、この街に来てからの情景や知り合った人たちのことがよぎって、結局引き金を引けません。
 アキラはボスから「殺しはするな」と言われました。
 けど、状況が変わってボスから「山岡を殺せ」と命じられました。
 だからアキラは山岡を殺すつもりだったはずです。
 しかし、引き金を引けなかった。
 プロとしてどうなのか、という疑問はありますが、では逆になんのためらいもなくアキラが山岡を殺していたらどうなっていたか。
 岬とは結婚できないだろうし、アザミやユーカリとは袂を分かつことになっていたはずです。 
 このあとのことを考えれば、アキラが山岡を殺さなかったのは正解だと思います。 

 海老原組長が「高橋ーッ!」と、倉庫の外に待機している高橋を呼びます。
 ここは高橋君の1番の見せ所でした。
 窓を開け、組長のルガーを投げ入れます。
 高橋君が窓の隙間から「はい、なんですか?」なんて言ってたら興ざめです。
 床に転がるルガーでこの回は終わります。

232話「崩れゆく男…。」
 ユーカリの放ったダーツは、海老原組長の左手に刺さります。
 ユーカリががさつではなく、もう少し丁寧な性格なら、右目あたりに刺さったかもしれません。
 洋子とほぼ同格のユーカリだとあれが精一杯かもしれません。

233話「運転手の男…。」
 洋子たちは二郎を拘束しようとしますが、ここで鈴木はへまをしています。
 拳銃を構えて二郎の間合いに入っているせいで、二郎が一瞬の隙を突いて鈴木の拳銃を奪おうとします。
 鈴木はポケットの中で別の拳銃を構えていてそれを二郎に発射しますが(同時にマツも発砲)、洋子が二郎を蹴ったせいで、銃創が致命的なものになります。
 銃を突きつけられたのが素人なら、反抗しようとは思わないかもしれません。しかし銃器を扱うとき、何より注意しないといけないのは、暴発も当然そうだけど(だから発砲するときにしかトリガーに指をかけない)、銃器を奪われないようにすることです。だから不必要に間合いに入るのはプロならまずしないはずです。

 映画やドラマで頭に銃を突きつけている場面がありますが、あれはフィクションだからこそで、実際にあのように頭に銃を突きつけた場合、一瞬で銃を相手に奪われてしまいます。
 銃を奪うのは簡単です。ひねれば奪えます。

 YouTubeなどでアメリカの警官が不審者に職質しているような動画はたくさんありますが、ほとんどの場合はある程度の距離を保っています。距離がないと危ないです。

 所詮フィクションなので、とは言いたくはないけど、あの場合、鈴木は二郎から3メートルは離れているべきだし、ひざまずかせるのではなく、腹ばいにさせるほうが安全だと思います。
 二重に整形して調子に乗ってんじゃない? みたいなことを洋子に言われて、軽口をたたき合いますが、面白いけど、やはりあそこは真剣にすべきでした。
 そうであれば二郎は死ぬことなく、海老原組長に引き渡されたはずです。
 しかし、物語という観点からみると、スマートな決着です。
 簡潔でいいです。
 すでに用なしだからあそこで死んでもらった。 

234話「上に立つ男…。」
 倉庫にボスが登場。
 海老原組長と事態の落としどころについて話し合います。
 ボスはソファに座りますが、なんとその真向かいには高橋君が座っています。 
 海老原組長に手払いされて高橋君は立ちます。

 洋子から海老原組長に二郎についての連絡が入ります。
 洋子たちが二郎を事故で殺してしまったことを告げると海老原組長「殺せーッ!」と命じて電話を切ります。

 オクトパスには仕事を終えたアキラが戻ってきて岬が出迎えます。

235話「話がある男…。」
 洋子たちが真黒住宅に戻ってきます。
 洋子が家に入ると、ユーカリが出迎えます。
 親代わりだった山岡が死んで、ユーカリやアザミはそれなりにショックを受けている様子です。
 どちらかというと、アザミのほうが強いショックを受けているのかなと感じました。

 オクトパスでは勤務が終わり、アキラと岬が帰途につきます。
 アキラは岬を送ったあと、オクトパスに戻って、入浴中の社長に「話がある」と告げます。
 風呂場にずかずかと入るのがアキラっぽいです。

236話「天国の男…。」
 風呂から上がった社長にアキラは仕事を辞めたいと告げます。
 別れについて、別れを告げる方はそんなに辛くないです。この場合はアキラです。
 別れを告げられるほうは、とんでもなく辛いです。この場合は社長。

 知人レベルの人でも、別れを告げられると心をえぐられるような気持ちを抱きます。
 これが恋人や夫婦になれば、できた傷は何年も癒えないものになったりします。
 だから、別れを切り出すのは勇気がいることです。
 考えなしに別れ話を切り出させるのはバカなのか、子供なのかのどちらかです。

 話は戻って、アキラは真黒住宅に戻ってアザミやユーカリと対面します。
 つい先ほど3人は殺し合いをしていました。
 アザミやユーカリは緊張した面持ちだけど、アキラは平然としています。
 アキラは「友達とケンカした――ふつう――よくある事なんじゃないのか」と弁当を食べながら言います。

 アザミやユーカリにとっては生死を分けた殺し合いでも、アキラにとってはただのケンカみたいなものでした。
 アキラは、ボスから、殺し屋稼業は終わりで、皆で普通の暮らしをするようにと言われたことを2人(と洋子)に告げます。

237話「父親の男…。」
 翌日、オクトパスでは、アザミが、普通の人のような朝の会話を社長や岬と交わしている頃、真黒住宅では、洋子が家を出る準備をしています。
 ここでもペット「オーイ」との別れがあります。
 洋子は別れを告げるほうだから、気は楽だと思います。
 洋子とユーカリの会話、どちらも相手を下に見ている感じが面白いです。
 いわく、洋子はユーカリを弟として見て、ユーカリは洋子を妹として考えていたそう。
 個人的な意見として……どちらかというと、洋子のほうがお姉さんかな。1~2歳ぐらい……

 二郎のアジトでは、海老原組長と高橋君が、前組長暗殺の件で、マツを相手に落とし前をつけようとしています。
 ヤクザは親を殺されたら黙ってることは出来ない。
 マツはその片棒を担いだんだから命を取られて当然。
 しかし組長は言います。
 洋子からこの件については念を押されてると。
 洋子とアキラには借りがあるから、ヤクザは借りは返すと。
 武器商人としてのマツはここで死に、マツはただの父親として今後生きていくことになります。
 涙なくしてはみられない場面です。
 海老原組長が最後、背中を見せているところもかっこいいです。

238話「お別れの男…。」
 真黒住宅にて、マツと洋子、ユーカリが話している場面。
 マツは帰り際、洋子に礼を言うために真黒住宅に寄ったのでした。
 帰り際、マツは深々とお辞儀をします。
 それをみて洋子はお辞儀を返し、ユーカリもつられたようにぴょこんと頭を下げます。
 ここの場面は面白いです。

 オクトパスでは、アキラが仕事を辞めることを岬に伝えて……なんと結婚指輪を渡していきなりプロポーズします。
 自分はあらかじめ2人が結婚することは知っていたので何も思わなかったけど、事前に知らなかったら驚いたはずです。

 アキラが岬と結婚したのは、岬が好きだからというよりは、組織から岬のことを守る意味合いのほうが強いと思います。
 若干、違和感を覚えます。
 自分の大事な人や、家族なら、組織にたてついて守ってもいいのかなと。そんなに甘い世界なのかなと。
 洋子も、ユーカリに、岬に手を出したら報復すると言っていた場面があるし、ユーカリやアザミは、組織に背いて山岡を助けようとするし……ちょっと微妙な点と思います。

239話「旅立つ男…。」
 倉庫で、アキラと洋子は真黒組の人たちと会います。別れの挨拶。
 最終巻にふさわしい別れの場面です。
 アキラや洋子は別れを告げる側なので悲しみはないはず。
 告げられた側は辛いものです。
 ここでも洋子とユーカリの掛け合いが面白いです。

240話「ふつうの男…。」
 街をあとにするため、トレーラーを運転している洋子は、ペ・ダイヨチャを見かけます。
 洋子はアキラにボスと何を話したのかを聞いて、アキラの回想場面へとつながります。
 ボスがアキラになぜ山岡を殺さなかった? と聞いて、アキラは、いろいろなものが頭をよぎったと答えます。
 ここら辺は……自分は特に変には思わなかったし、それなりに納得しましたが、読者の中には、プロの殺し屋なのに殺しが履行できなかったのはおかしいと感じる人がそれなりにいるようです。
 一理あります。
 たかだか1年ほどの間に普通の生活をして、仕事を得て、友人と呼べる存在ができたぐらいで、生粋の殺し屋が殺しという行為に迷いを覚えるだろうかとの疑問はあります。しかし、ここでアキラが何のためらいもなく山岡をズドンと殺していたら、このような結末にはならないし、想像するに、悲惨な結末を迎えるのではないかとも思えます。
 後味の悪い結末より、少々無理があるにしても、アキラが市井に触れて「ふつうの男」に近づいた、ということにしたほうが、スマートかなと感じました。

「ザ・ファブル」第一部の総評

「ザ・ファブル」第一部、面白いです。
 委細に見ると、ん? ちょっとおかしくない? という疑問もわいたりはしますが、そういう点をあまり感じさせないのは、キャラの特異性と、矢継ぎ早に物語が流れていく展開の早さのせいかなと思います。

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