「ザ・ファブル」感想|天才的殺し屋の物語

ザ・ファブル20巻

 何年か前からザ・ファブルという漫画が気になっていました。
 人気があるようだけど(評価も高い)、表紙から抱くイメージは「しょうもないヤンキー漫画だろう」みたいに思っていて敬遠していました。
 ふと1巻だけ読んでみたところ、20巻まで一気読みでした。
 面白いです。

 あらすじを紹介……と行きたいところですが、Wikiやヤンマガ公式から引用いたします。

現代の東京。その伝説的な強さのため、裏社会の人間から「寓話」という意味を持つ「ファブル」と呼ばれる1人の殺し屋がいた。その男は幼いころから「ボス」の指導を受け、数々の標的を仕留めてきた。しかし、彼の正体が暴かれるのを恐れたボスは「1年間大阪に移住し、その間は誰も殺さず一般人として平和に暮らせ」と指示する。こうして彼は「佐藤明」という名前を与えられ、ボスと古くから付き合いのある暴力団「真黒組」の庇護の元、一般人として大阪での生活を始めるのだった。
▲Wikiより。
ザ・ファブル
『なにわ友あれ』完結から4ヵ月──。南勝久、新連載銃撃開始ッ!!
鈍色の愛銃ナイトホークを手に、“殺し屋ファブル”が町にやってくる──!!
どんな敵も鮮やかに葬り去る“殺しの天才”通称ファブルは、相棒の女とともに、日々、裏社会の仕事をこなす日々‥‥。
だがある日、ボスの突然の指令を受け、“一般人”として、まったく新しい生活を送るハメに‥‥。
そしてファブルの野蛮で、滑稽で、奇妙な“寓話”が弾け出したッ‥‥!!!
▲ヤンマガ公式より。

 単行本の発売されていない21巻以降は、ネットであらすじだけを読みました(単行本が出たら即買います)。
 良い結末と思います。
 殺し屋の出てくる物語に抵抗がないなら、読んで損はないです。
 大人の読む漫画です。

 第二部は2020年の夏からスタートとのことですが、一部の完成度からするとまた面白いものになりそうで楽しみです。

 映画のほうは見ていません。
 面白そうではありますが、漫画に比べるとだいぶ劣るかな……と思います。まあ見てないからなんとも言えませんが。

 映画よりも、ドラマのほうが合いそうではあります。

「ザ・ファブル」の気になる点

「ザ・ファブル」の気になる点というか、苦言というほどではないけど……所詮漫画だからといわれたらそれまでですが……登場人物が「やるな」と言われていることをやり過ぎ。
 まずは、真黒組の若頭の海老原。
 ファブルに関わるなと組長から言われたのに、独断で動いて元レスラーのろくでなしの始末を明にさせようとする。
 海老原の弟分の小島はデリヘルはやるなと言われたのに、デリヘルをやろうとする。
 幹部の砂川は、組長から小島を殺すのは駄目だと言われるのに殺し屋を雇って小島を殺そうとする。
 規律はどうなってるんだと思うところはあります。組長が軽すぎです。
 まあそのおかげで物語が面白くなっているのは否定できませんが。

 あと……明を一般人として生活させるなら、真黒組に預けない方が良かった。これをいうと、物語が前提から崩れてしまいますが。
サンマ定食
 ▲明の大好物のサンマ。

「ザ・ファブル」の個人的人物評

佐藤明
 主人公。幼少の頃から殺人の訓練を受けた天才的な殺し屋。つかみ所のない、普通ではない人物として描かれます。普段は温厚で、仕事以外の殺生は行いません。極度の猫舌。お笑い芸人のジャッカル富岡のファン。「プロとして」という言葉に弱い。とにかくワイルド。枝豆は皮ごと、スイカも皮ごと、サンマは頭からしっぽまで、なんでも食べます。
 周りの一部の者は、彼のことを不良に絡まれて泣いて謝ったへたれとの認識をしていますが、唯一、スナックのママだけは「そんなふうに見えない」との第一印象。

 漫画に限りませんがエンタメ作品では、非日常を描くことが多いです。当然、ザ・ファブルも、事件などが起こって非日常が描かれますが、プロの殺し屋の佐藤明にとっては散歩みたいなものです。作中には佐藤の同業である殺し屋が何人も出てきますが、彼らは敵にさえなりません。同門の殺し屋でも同じです。
 今日と同じ明日を迎える普通の日常を、佐藤明はいつしか「いいもの」として認識していくところに、殺し屋を扱った物語としては斬新な部分を感じます。

 明は、敵を6秒で倒すことを信条としています。
 この6秒に意味はあるのか。訓練されたプロの兵士は、銃を構えてから狙いを定めて発砲するまでおよそ4秒といわれますから、おそらくここに基準があるのかなと思います。素人が銃を構えて狙いを定めるなら6秒はかかるだろうから、その間に対処しろ、ということなのかなと。
 プロの兵士でも、上級になると、4秒はかからないと思います。
 明や山岡は、発砲するまで4秒はかかりません。体で覚えれば、狙いを定める(照門と照星で)必要はなく即座に発砲できるとは思います。
 料理人の包丁さばきなんかと一緒だと思います。

佐藤洋子
 明の妹の設定だけど血縁ではありません。明の仕事上のパートナーであり運転手。記憶力に優れます。格闘術は相当なレベルで、相手が一般人であれば負けることはありません。
 最初は、よくありがちな、頭すっからかんのバカ女に思えます。
 若干ファザーコンプレックス気味です。

 東西冷戦時代の諜報員に関しての書籍を読んだことがありますが、その中に、スパイは異性に対する羞恥心などを克服するための訓練の一環として、数日間から長いと数週間、複数の男女で乱交したりするとのこと。洋子もそのような経験があるようです。作中にはっきりとは出てきませんが、山岡がそんなことを話していました。
 おそらく明も、同じような訓練を行ったことがあるのではと想像します。

 鈴木との対決は彼女の見せ場でした。
 バカ女に見えて実は強くてかっこいい女です。

 記憶力に優れる描写があまりないのは残念に思います。おそらく彼女は、読んだ本を丸暗記できるぐらいの記憶力をもっているはずです。

 あと細かな点ですが、佐藤洋子は喫煙者なのかどうか。
 たぶんですが、作中で、洋子がタバコを吸っている場面はありません。
 映画では、喫煙場面があるようです。
 漫画の最初のほうの巻では、真黒住宅のテーブルの上にタバコとライターと灰皿らしきものが描かれているので、タバコを吸う場面はないけど洋子は喫煙者だと思います。
 明のほうはたぶんタバコは吸いません。
 中盤以降、灰皿と煙草は見当たらないので途中で禁煙したのかもしれません。


 危機感低すぎのヒロイン。
 個人的にはあまり魅力を感じないです。
 しかしそれは明が個性的すぎるからなのかもしれません。
 彼女は、平凡で、普通であるべきとも思います。
 岬がストレンジャー的ではなく、ごく普通の女の子であるが故に、明のキャラが立つのだと思います。

 彼女は、事件に巻き込まれたと思っていて、しかし、実は守られていたことに気づきます。
「気づいていたけど、分かっていなかった」と。
 一見して矛盾しているようでいて、実際にこういうことはあると思います。
 脳で処理できること以上の出来事に直面すると、オーバーヒートというか、簡単なことが分からなかったりしますから。

山岡
 明や洋子の属する組織の幹部。
 殺し屋の殺し屋。
 年齢は53歳前後。
 まだ衰えは来ていないようです。
 マクドナルドが好きみたいです。
「座れよ、お前が立ってると、俺が偉そうにしてるみたいじゃないか」が口癖。

アザミ
 明の所属する組織の殺し屋。
 明とは同門です。大柄で眼鏡をかけた、一見すると優しい感じの男性です。
 泣き真似が得意。

ユーカリ
 アザミと同様、組織の殺し屋。
 洋子とはどちらが上かで競っている模様。しかし仲は良いです。
 アザミもユーカリは単独でも、徒党を組んでも、明には敵いません。

 ユーカリは、結構がさつなところがあります。
 遊びでビリヤードをやりますが、ことごとく玉が入りません。
 物事の習熟には、練習と考察、実験などのサイクルが必要ですが、ユーカリにはそれらのものが欠落しています。
 ダーツも、的に当たりはするけど、ど真ん中ではありません。
 おそらく彼は、射撃の腕は確かです。精密射撃もできるはずです。しかし、当たればいいという考えをもっているようにも感じます。
 そこがちょっと甘いかなと思います。子供っぽいです。
 実力は、洋子よりは上だとは思いますが、部分的には拮抗しているかもしれません。

 冗談で銃口をマツに向けた場面も子供っぽいです。
 プロであれば、冗談で銃口を人に向けることはないです。マツが驚いたのも無理はありません。

田高田
 明がアルバイトをしているデザイン会社の社長。
 明と岬をくっつけようとしたりします。
 気のいいおっちゃんです。

 田高田という人物は主要登場人物ではないけど「ザ・ファブル」という物語に必要な人物です。
 しっかりとした年長者という存在は、物語の世界観に必要不可欠です。
 裏の世界では、ボスが年長者にあたり、表の世界ではこの田高田社長が年長者になります。
 田高田社長が存在しなければ「ザ・ファブル」はありがちな殺し屋の漫画になりそうとも感じます。

浜田広志
 暴力団である真黒組の組長。
 組長ではあるけど、組織の実質的なトップは若頭である海老原だと思います。

 ちなみに、ザ・ファブルでは、海に関する用語がよく出てきます。この「真黒組」もその一つ。組の事務所は太平市浅瀬町にあります。隣は大洋市。鮫剣組はかつて敵対した暴力団。紅白(くじら)組という暴力団もあります。若頭は海老原で、その弟分は小島。組の幹部は、砂川と水野。黒塩という組員もいます。

海老原剛士
 真黒組の若頭。
 本当にこんな極道がいそうなリアリティがあります。

「命」は平等であり神聖であるとの考えから、当初は殺し屋である明を嫌悪しますが、明は決して好きで人を殺しているわけではないし、無益な殺生はしないことを知ってからは、彼の味方になります。

 好きなキャラだし、見せ場も多いけど、組長としてはどうなのかなと思うところがあります。
 17巻、水野とサシで飲む場面。
 海老原は水野に、砂川と何があったのかと聞きます。
 水野ははぐらかして何も答えません。
 すると海老原は、水野をバカにしたような態度をとってその場から去ります。
 これは組長としてはいかがなものかと思います。
 相手が言わない。その理由を考えたのかなと。相手の立場にたってものを考えることも、上に立つ人間なら必要だと思います。
 親が子供に何かあったのかと聞き、子供が何もないと答える。親がバカにした様な態度を取る。これは駄目な親です。
 そうか、分かった、と何かあるとは思いながらも、相手を尊重する。同時にほかからその「何か」を調べる。これが真っ当な親のすることだと思います。

水野
 真黒組の幹部の1人。
 カチコミに備えて助っ人を雇ってそちらには本物の銃を持たせ、自分の部下にはおもちゃを持たせたりします(警察の捜査が入ったときに部下を守るため)。
 部下思いのよい上司です。
 コスプレは好きでやっているんじゃないと言い張るも実はコスプレが好き。
 もしくは、シンプルに素直な性格なのかもしれません。
 彼は砂川から「コスプレでもして待機しておけ」と言われますがその通りにしたようです。もしくは、言われる前からコスプレしていた可能性もありますが。

小島
 海老原の弟分。
 刑務所から出所したばかり。
 基本的に小物(名前が小島だけに)。どこぞの芸人ではあるまいし、やるなよと釘を刺されたことをあえて実行します。
 かつての先輩に会いに行って、昔の借金の返済を迫った際、先輩が「金庫の指紋認証、」と言ったところで銃をぶっ放し殺してしまうのは「指紋認証」が理解できなかったのかもしれません。
 色々空回りして結局死にます。15年のブランクを埋めようと必死すぎたのかもしれません。

高橋
 真黒組の下っ端組員。
 高橋君は、ヤクザではありますが、ザ・ファブルの中では、もっとも普通の人に近いと思われる人物です。
 知能は低く、記憶力も低く、お酒にも弱く、礼儀にも疎く、血も苦手なようです。
 物語の後半で、佐藤兄妹の正体を知りますが、そのときの動揺した言動はちょっと可愛いです。
 ゆとりっぽい雰囲気が全身を覆っています。
 小島との初対面の時はいきなり殴られ、座ったら怒られ、ビールを片手で受けとるなと怒られたりと、さんざんな扱いですが、仕方がないかなとも思います。

マツ
 昔は殺し屋で、いまは武器密売などをしている裏稼業の男。
 明たちの組織の殺し屋と比べると、彼は2~3段は劣るようです。
 もし、ザ・ファブルのような世界が現実にあるとして、自分が殺し屋になるとしたら、精一杯努力してもこのマツさんぐらいの実力しか発揮できないのでは? なんて思ったりします。なんというか、一般人が頑張って手に入れることのできるレベルの上限みたいな感じです。

鈴木
 殺し屋。
 その世界での実力は、洋子と対峙した際に難なくやり込められたので、一流とはいえないかもしれません。しかしそれは油断(油断した時点で一流とはいえないかも…)したからであって、本来の実力は洋子と同等、もしくは上と思います。
 40歳に近い年齢ながら、整形により若く見えます。

スズムシ
 山岡たちの遊び相手として選ばれた不良。地下格闘技の優勝者。
 サウスポー、もしくは両利きと思われます。
 案外このスズムシ君は頭が良いです。
 脳筋と思いきや、相手が自分より格上だと思えば躊躇なく土下座して謝ります。
 なかなかこれはできません。
 ひょっとすると、怖い兄がいるか、末っ子なのかもしれません。
 しかし頭の上がらない兄がいるなら、あくどいことはできないはずで、ではその兄も悪なのかというと、作中には出てきませんから少し違和感を覚えます。

 スズムシのツレのほうはマツに突っかかっていきあっさりと殺されましたが、スズムシも本来このような流れになるのが自然と個人的には思います。
 つまり、ユーカリに敵わないと悟っても、いや、そんなはずはない、何かの間違いで、本当は自分が強いはずと思い込んで何度も向かっていき、顔面ぼこぼこになってもアドレナリンのせいで痛みが分からず、やがては致命傷を受けて気絶するか死ぬかが妥当な流れだと思います。

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