読書感想「黄金を抱いて翔べ」高村薫著

 高村薫さんの「黄金を抱いて翔べ」を読みました。
 同氏の作品としては初期の長篇になります。
 筋立てはシンプルです。
 結末もあっと驚くようなどんでん返しがあるわけでもありません。
 しかし、面白いです。
 何がスゴイって、金塊を強奪しようというお話ですが、端折ってるところが皆無なところ。
 下見から計画、ダイナマイトの調達など、全てに渡って圧倒的なディテールで書き込まれます。
 それでグイグイ読ませるというのがまた驚きです。
 退屈な場面がほとんどありません。

 携わるキャラも生身の人間かと思わせるほどにリアルです。
 けど、2つほど気になった点があります。
 高村薫さんはクリスチャンではないと思いますが、幼少の頃にキリスト教の影響を受けたらしいです(少し調べましたが確認はできず)。
 そのせいか、作品の端々にキリスト教の影がちらつきます。
 この作品でも、教会や牧師が出てきます。

 個人的な考えですが、作品に宗教の色を出すというのは好きになれません。
 思わせぶりな雰囲気が合いません。
 神を肯定して、それが当たり前である世界を描くという行為に、居心地の悪さを感じます。
 あくまで小説の中の話であるのはわかっているし、高村薫氏の宗教観が色濃く反映されているとまでは感じないけど……

 もうひとつは同性愛です。
 同性愛を否定する気はありません。
 けど、その記述が出てきたときは驚きました。
 話の筋に不整合があるわけではありませんが。

 他の人物が「ふふん、そうだろうと思ってた」みたいなことを言いますが、もっと驚けよ! と思いました。
 けれど宗教と同性愛の2つを本作から排除すると途端に安っぽくなってしまうのも確かです。
 だとすれば、この2つも本書を構成するしっかりとしたパーツなのだと思います。

 井筒和幸監督の映画版についてはまだ観ていません。
 いずれ観てみたいです。

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